裁判員制度についてわかりやすく解説!あなたもなるかも?
裁判員制度がどんな制度かよくわからないという方は多いのではないでしょうか。ニュースやドラマで目にする様々な事件や裁判の場面。現実に、私たち普通の一般人も裁判に立ち会うことがあります。制度として始まっている刑事事件の裁判員制度を追っていきます。
裁判員制度を知ろう
2009年に始まった裁判員制度。開始されてから約10年になりますが、名前の認知度に比べてどのような制度であるかは、案外知られていないかもしれません。20歳以上の有権者であれば誰しもなる可能性のある裁判員制度を、概要から追っていきましょう。
裁判員制度の概要
3名の裁判官と規定に則って選ばれた6名の裁判員が、刑事事件の裁判に共に参加する制度です。裁判官と一緒に事件の審理を行い、有罪の場合には具体的な罰則を決めます。これまでの刑事裁判は裁判官3名で評議・評決を行っていましたが、当制度により、9名で評議・評決を行います。
裁判員制度が生まれた背景
裁判員制度が取り入れられた理由について、大きく3点をご紹介します。まずは、一般市民が参加することで司法への理解が深めてもらうため。次に、一般市民の日常的な感覚・意見を裁判に反映させるため。最後に、身近になったことで司法・刑事裁判に対する信頼の向上につなげるため。の3点です。一般市民、国民が裁判に参加する制度をもつ国は諸外国にもあり、アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・イタリアなどが挙げられます。
どのようにして裁判員に選ばれるのか
2009年に制度が始まってから2016年12月までの間に裁判員に選任された人数は8,673人に及びます。多くのかたが選任されていますね。それでは、裁判員はどのようにして選ばれるのでしょうか。ここでは6つの項目に分けて、順番にご説明します。
前年秋頃:裁判員候補者名簿を作成
20歳以上の有権者から選ばれることが前提です。その中で、翌年の裁判員候補者名簿を作成します。名簿に記載される候補者は、地方裁判所ごとに毎年行われるくじ引きで決定します。名簿も裁判所ごとに作成されます。
前年11月頃:候補者に通知
候補者に対し、候補者名簿に登録されたことを通知します。調査票も併せて送付します。候補者は調査票を必ず返送する必要があります。この調査票により裁判員になれない、もしくは辞退を認められた人には裁判所に呼び出さない措置がなされます。
事件ごとに、名簿登録された候補者の中からくじで選ぶ
くじ引きを用いて、事件ごとに候補者を選びます。最終的に1つの事件につき6名の裁判員を選びます。
裁判の6週間前:質問票と選任手続期日のお知らせを送付
各事件ごとに選任された候補者に、質問票と呼出状(選任手続期日のお知らせ)を送付します。欠員が出ることも考慮し、補充要員として裁判員候補者約70名にお知らせを送付しています。候補者は質問票を必ず返送する必要があるので注意しましょう。この質問票により辞退を認められた人には呼出取消しの措置がとられ、裁判所に行く必要が無くなります。
選任手続期日
候補者は選任手続期日の当日に当該の裁判所へ出向き、面談で裁判長からの質問を受けます。辞退の希望の有無・理由や、不公平な裁判をしないかなどについてと、前段階の質問票とは別に、辞退をするに値する理由があるかを聴かれます。というのも、この段階で初めて、裁判の概要が候補者に伝えられます。担当する裁判の被告人が、候補者自身の親族や関係の深い人物の場合、判断を公正に行うことがむずかしくなる懸念が生じます。そのため、それを理由とする辞退が可能なのでこの場での質問が行われます。
裁判員6人を選任
選任手続期日の面談で質問や説明が終わると、抽選のうえで最終的に事件ごとに裁判員6名が選ばれます。場合により、このタイミングで補充裁判員が選任されます。
裁判員に選ばれたら
一般市民が参加する裁判員制度。例えば、裁判が行われる平日に仕事がある場合は、勤務先を休む必要があります。必要であれば、裁判所が裁判員として業務に就いた旨を記した「出頭証明書」を出してくれますが、このように生活上で各所への配慮・準備を忘れずに行いたいですね。
裁判員に選ばれたら
さて、裁判員に選ばれると、裁判員として公平な裁判をすること、守秘義務を守ることなどを宣誓し、正式な裁判員としての業務が始まります。ボランティアではないので、選ばれると日当が支払われます。日当の金額は規則に基づき1日10,000円以内(補充裁判員も同額)。裁判員候補者や選任予定裁判員の金額は1日8,000円以内です。守秘義務は後述する課題に関連する項目で、「評議」で誰が何を言ったかなどを外で話してはいけないことになっています。法廷での公判に参加した感想は話しても良いとされています。
辞退は可能か
一方で、裁判員を辞退することはできないのでしょうか。辞退は基本的には認められていません。しかし、法律で示された項目に該当する場合は、辞退を申し立てることができます。シンプルに挙げると、年齢・職業・育児・介護・一定期間の裁判員としての経歴・社会生活上の重要な用務を有する・災害などによる被害で生活の再建が必要、などです。調査票を返送する際に,これらの辞退の項目に該当するかどうかを答えるのですが、裁判員になることができないのが明らかであったり,1年を通して辞退事由が認められたりする場合は,裁判所に呼ばれることはありません。
裁判員の果たす役割
裁判員はどのような事件を担当するのでしょうか。また、裁判員としての業務はどのように進んでいくのでしょうか。行う業務を3つに分け、順を追ってご紹介します。
裁判員制度の対象となる主な事件
まず、裁判員制度で扱う裁判は刑事事件に限ります。なおかつ、刑事事件の中から法律に則り、以下の犯罪を裁判員制度の対象としています。殺人・強盗致死傷・傷害致死・危険運転致死・現住建造物等放火・身代金目的誘拐・強制わいせつ致死傷・覚せい剤取締法違反・強盗強姦などが該当します。
公判立ち合い
担当する刑事事件の裁判に出頭します。公判では口頭弁論、検察による概略説明、証拠書類の取り調べや証人尋問、被告人への尋問、検察及び弁護側それぞれの論告弁論、被告人最終意見陳述と続くので、これらを見聞きします。裁判員から証人などに対する質問も可能です。
評議と評決
証拠を調べ終わると、裁判官と裁判員が一緒になって評議と評決を行います。評議とは、事実を認定し、被告人を有罪とするか無罪とするか、有罪であればどのような刑にするかを議論することで、評決とはそれらを決定することです。評議の末、意見の全員一致に至らなかった場合は、多数決による評決が行われます。ただし、留意しなければならないことが2点あります。まず、被告人が不利となる場合。裁判員のみによる意見では、被告人が不利となる判断をすることはできません。1人以上の裁判官が多数意見に賛成している必要があります。2点めは、裁判員の意見の扱い。有罪か無罪か,有罪であれば、その刑に関する裁判員の意見は,裁判官と同じ重みを持ちます。
判決宣告
評議を経て評決の内容が決まると、法廷で裁判長が被告人に判決を伝えます。評議した内容は、主文として伝えられます。裁判員としての任務は、この判決宣告により終了します。無論、任務を終えても守秘義務を課せられます。
裁判員制度の課題
私たち一般市民の声は、どのように裁判員制度に反映されているのでしょうか。ここでは、裁判員制度が抱える課題についてご説明します。
出席率の低下
裁判員制度が発足した2009年は84%もの人が期日の出頭に応じていたものの、その「出席率」が年々減少しています。2016年では64.9%まで下がっています。裏を返せば、呼出状が届いても「無断欠席」する割合が35.1%に増えたことを示しています。高齢や病気による辞退を認められた人も多く、実際の出席率は2割台に落ち込んでいます。
前向きな参加との乖離
別の視点から見ると、裁判員としての裁判出席に「消極的な人の割合」は8割を超えるアンケート結果があります。一般市民の日常感覚を採り入れたり、司法への理解を深めるなど、国が求める前向きな参加との乖離が見られます。重大な事件になるほど、法律行為に関わる不安、有罪か無罪かだけではなく被告人の未来を決めるという重圧などの心理的負担が大きいことへの危惧が考えられます。裁判員になると課せられる守秘義務も心理的負担となりえます。したがって、精神的負担へのケアを始め、勤務先での経済保障・休暇制度の充実など、日常生活への負担軽減も併せて制度の見直しが必要ではないでしょうか。
一般市民の参加と普通の社会
「より国民の理解しやすい裁判を実現する」「一般市民の日常感覚を採り入れる」ことを目指している裁判員制度。2008年のデータによると、制度対象の裁判の平均審理期間は7か月強。平均開廷回数は4回弱と長期に渡ります。そして、裁判員制度で当選した人の性別・年代を見ると、偏りなく選ばれています。このことからも、安心して裁判に参加できるように候補者・裁判員の安全を保障する、なおかつ制度を広めて理解されるよう経験者などが自由に議論できる制度が整備されなければ、一般市民の協力は得られません。一方、生活を送る中で刑事事件の裁判が日常的に行われていることは、私たちにとっては違う世界のことのように感じていたかもしれません。ドラマやシュミレーションゲームでもない、身近な現実が存在しています。従来の司法の専門家による捜査・起訴・自白・有罪という流れから独立して、私たちが裁判に参加するのですね。